特定医療法人 杏仁会 神野病院
〈うつ病のAさんのケース〉
Aさんは、30歳代男性、妻と子供一人との3人暮らしの公務員。几帳面で真面目な仕事ぶりが評価され、4月より係長に昇進し、これまで以上に忙しい毎日を送るようになりました。それまでは家庭と仕事を両立させようと頑張ってきましたが、昇進後はそれもなかなか難しくなり、子供の行事に参加したり、クラブの応援に行くことも次第に出来なくなっていきました。それから数ヶ月が過ぎた9月のある日、最近疲れが抜けず、食欲も湧かない毎日が続いていましたので、「夏バテなのかな?それとも単に歳を取ってきたせいかな?」などと思うようになりました。そのうち良くなるだろうとあまり気にしてもいませんでしたが、秋になっても一向に体調は良くならず、それどころか夜眠れないために体のだるさは増す一方でした。頭痛や肩こり、胃痛もひんぱんに感じるようになり、何とか市販薬を飲んで対処したり、眠って疲れを取ろうとするのですがそれも難しく、次第にお酒の量も増えて行きました。仕事の効率は落ち、残業も増え、そのような状況でも真面目な性格のため仕事を断ることが出来ず、処理しきれない仕事が山積みとなり、ますますストレスがたまってしまう悪循環に陥ってしまいました。その様な中でも自宅新築の打ち合わせで毎週末隣県にある建築メーカーまで出かけて行かなければならなりませんでした。この頃職場でストレスチェックが実施される案内が回ってきたのですが、ハイリスクとの結果が出ることを恐れたAさんは、無視することにしてそのままゴミ箱に捨ててしまいました。「いつか良くなるだろう、いつか良くなるだろう」と思いながら過ごしていましたが、年を越しても状態は悪くなる一方でした。同じような経験をしたことがある上司の方が、産業医への相談や精神科受診を何度も勧めていたのですがAさんは頑なに断っていました。しかしこのような状態にまでなってしまったため、半ば職場命令という形で上司に連れられて私たちの元を訪ねて来られたのでした。